「普段Web上で活躍するメディアやライターの方々が、敢えてリアルの場で紙の本などのグッズを販売する」というコンセプトのイベントだが、そこにメディア部活動を標榜する我々が乗り込んで「穴」を展示する。Webメディアとは一体何か、という根本的な部分に疑問を投げかける問題作である。現代アートの旗手、マルセル・デュシャンが美術の展覧会で「泉」を展示したのと同じだ。
イベントは大盛況で、約100人が次々と穴に首を突っ込むという快挙を成し遂げた。しかし、そこに至るまでにはアクリル半球を紙ヤスリでこすりまくったり大量の鉄の棒を運んで組み上げるなどの苦労と工夫があった。まずはそこからじっくりと紹介したい。
友人の友人の友人にブラジルの映像を撮ってもらう
前回作った「ブラジルにつながってる穴」は人が乗れるようにするための大きな台と、プロジェクターを置くための空間として、縦横3m四方のスペースを必要とした。しかしグッズ販売が主体のWebメディアびっくりセールのブースは長机半分。さすがに半分だと机をどけることもできないので、枠を2つ買い、縦横1.8mの空間を確保する。ここに収めるため、「ブラジルにつながってる穴 ミニ」を制作することにする。この段階でイベントまで残り1ヶ月。
前回はYouTubeで拾ってきたリオのカーニバルの360°動画を流していたが、ふつうのブラジルの日常と接続したかったので、(あと、お金をとってYouTubeの動画を見せるのはさすがにどうなんだと思ったので)ブラジル在住の人をSNSで募集しまくって探した。イベント2週間前に見つかったのは友人の友人の友人でブラジル在住のカメラマン、鶴田さん。サンパウロのパウリスタ通りなどブラジルの日常の光景を撮影してきてもらった。
でかいものを作るのは大変
360°スクリーンとなるアクリル半球は少し小さめの直径600mmのものを使用する。透明のものと乳半色のものがある。透明なものは12,000円ぐらいで、プロジェクターで投影するのに便利そうな乳白色のものは22,000円ぐらい。費用をケチって透明のものを選んだ結果、半球を紙ヤスリでひたすらこすって白く曇らせる「アクリル地獄」に足を踏み入れることとなる。
半球のほかに、それを支える台が必要だ。前回のように既製のちょうどいい台はなさそうなので、自作することになる。ここでの問題は「でかいものを作ったことがない」ということである。普段は猫背でキーボードを叩いて暮らしているので、IKEAの本棚以上にでかくて複雑なものを作ったことがない。人が乗っても折れない、頑丈な枠が必要だ。インターネットで「枠」の作り方を調べた結果、強い棚をDIYするときなどに使う「鉄アングル」というものが良さそうだとわかる。鉄アングルはあらかじめ穴の空いた、山形に折れ曲がった細長い鉄板である。これなら木材と違って、穴を開けずに何度でも組み立てたりバラしたりできるし、木材より薄くかさばらない。
届いてみて初めてわかったこととして、鉄アングルは重い。鉄でできているから当たり前といえば当たり前なのだが、束になるとサイズに対する重さが尋常ではなく、コンパクトな見た目に油断して持ち上げようとすると腰を破壊する危険がある。家に届けに来た佐川のおっちゃんに「何が入ってるんですかこれ…?」と言われてしまい申し訳ない気持ちになる。(2回目以降はカートで届けに来た)
首回りの穴で怪我をしないよう、紙ヤスリをかける。さながらそういう職人 自宅で組み上げて、試しに映像のキャリブレーション。毎度のことながらここまでくるのに数週間かかっている
いよいよ当日
前々日になっても映像の編集がうまくできず8万の編集ソフトを買いそうになりつつもなんとか準備を終えて当日。出展者の受付は10時半からだが、我々は組み立てがあるので9時半に集合することに。
電車で「亀仙人…」と噂されながら到着 参加者が集まってくる前に着手するが、時間がかかりすぎて結局ギリギリだった 明らかにやってることが周りと違う なんとか設営できました。eの字がはがれかけてる
早めに来て3人がかりで準備した甲斐あって12時のスタートと同時に完成。(本当はちょっとだけオーバーした) 体験価格は100円に設定したが、今回はWebメディアびっくりセールのテーマに合わせ、「ステマ割」を導入。Twitterなどで絶賛することで値段が無料になるというキャンペーンである。普段は御法度のステマを堂々と楽しんでもらおうというコンセプトである。
大体どうなってるのかは外から見てもわかるのだが、穴の魅力に誰も抗えない 特に子供に大人気だった ブースの横を通るたび、通算10回ぐらい首を突っ込んでいた少年 光ってる穴自体も絵になるらしく、観光スポットみたいに人々が写真を撮っていく
Webメディアびっくりセールは大盛況だった。イベントの内容と合っているのかも謎なのでブラジルにつながってる穴のブースに人が来るかどうか不安だったが、ふたを開けてみれば人々が穴に行列をつくり、次々と笑顔で穴に頭を突っ込んでいく光景が広がっていた。走馬灯でみるかもしれない光景である。Webメディアでもなければ意味もわからない我々の出展を受け入れてくれたデイリーポータルZの方々の懐の広さに敬意を表したい。デイリーポータルZの事前PRに「要は雑なチームラボみたいなことです」とわかりやすく書いていたが、本家のチームラボの高須さんが通りがかりざまに「いいね!ナイス!」と言ってくれたので公認ということにしておく。
お客さんに説明するときに「本当はブラジルにリアルタイムで繋ぎたいんですけど、時差が11時間あるからいま真夜中なんですよね(笑)」と冗談っぽく言っていたが、本当にブラジルにリアルタイムで繋ぎたい。どちらかがオールナイトのイベントだったらいけるだろうか。ブラジルでクラブイベントをやってる人がいたら教えてください。
中はこうなっていた 終わったあと3人でひっそり打ち上げをした店の、強引な値上げ
東信伍 (コンセプト、デザイン、装置製作、文責)
高田徹 (プログラミング、装置製作)
時田浩司 (装置製作)
映像協力: 鶴田成美 (ブラジル代表)
Rodrigo Arnaut( Esconderijo Criativo )(ブラジル代表)
Henrique Prado ( Esconderijo Criativo )(ブラジル代表)