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iPhoneのアラームを止めるために起き上がる。スリープを解除して目覚まし時計をオフにする。それから、Twitterのアプリを開く。タイムラインをさかのぼると、フォローしている、多くは顔も知らない人たちがなんとなしに発した言葉が流れてくる。それから、インターネットで話題になっているものごとについて誰かが言及しているのが流れてくる。言葉が頭の中に流れ込んで通り抜けていって、だんだん目が醒めてくる。温水プールで泳ぎはじめるときみたいに、身体が少しずつインターネットに馴染んでくる。

高校の時、自宅のパソコンからインターネットで自主制作動画をひたすら探して観てる時期があって、演技も演出もほとんど素人で意味のわからない映像ばっかりだったんだけど、なぜかそういうのが好きだった。多分誰も知らない、知ろうとも思わないようなものを観てるというのが好きだったんじゃないだろうか。

夜に住宅街を歩きながら、マンションの窓の明かりを眺めるのが好きだ。あのおびただしい数の窓の明かり一つ一つの向こう側に、それぞれ自分の知らない違う人が住んでいて、違う照明と違う家具に囲まれた違う暮らしがあり、違う人と違う会話や違う食事をしていて、しかもそれらの暮らしそれぞれが当人にとっては代替の効かない貴重なものであるという事実が、空恐ろしいような素晴らしいような、不思議な気分にさせる。

*

僕は日曜の夕方のネットカフェの個室でこの文章をあなたに向けて書いている。ネットカフェの個室というのは一種のコックピットのようなものだ。閉じた空間の手が届く範囲にあらゆるものが制御できる環境で、ディスプレイは世界につながったのぞき窓だ。3時間パック料金の時間内に、ここに小さな生活を立ち上げて、そのうえでここから、画面のそちら側のあなたに何かを伝えようとしている。

あなたはインターネットを介してこのページを見ている。いつ、どんな場所で、どんな表情でこの文章を読んでいるのだろうか。あなたはどんな顔をしているのだろうか。僕はそれが知りたくてこのページを作った。

いまあなたがこのページの裏側からのぞき込んでいるのは、あなたと時を同じくして偶然このページを見ている誰かの顔だ。この人はどんな表情をしているだろうか。リラックスしている? それとも眉間にしわを寄せている? 自宅にいる? 移動中の電車の車両? もしかすると知らない国にいる人かもしれない。

そして、あなたが見ているのとちょうど同じように、あなたの顔も、今たまたまこのページにアクセスした別の誰かに見られている。インターネットをのぞくとき、インターネットもまたこちらをのぞいているというわけだ。

僕はページ・ビューのこちら側から、ページ・ビューの向こうの知らないあなたに向けて文章を書いている。僕たちは今後も知らない同士だろうけど、ディスプレイの向こう側の群衆の中に僕やこの人がいたことを、ときどき思い出してみてほしい。

開発・テキスト: 東信伍

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