ツイッターのスマホアプリには「下書き」という機能がある。ツイートしようと思って書いたけどツイートしなかったものが下書きとして保存される機能だ。
ここには、単に書きかけのまま忘れていたもの、書いたはいいが別に大勢にツイートするほどのことでもないな…と思ってやめたもの、ソーシャル上での人間関係への配慮からツイートするに至らなかったもの、などが保存されることになる。
僕がツイッターをはじめたのは2007年、当時はSNSは誰もが使っているようなものではなく、日常から少し離れた秘密基地のようなものだった。そこでは日頃の人間関係からは切り離され、遠く離れた場所に住む知らないけど知っている人々のつぶやきのなかに、それぞれの生活や違った感性が垣間見える場所だった。
それから10年と少し経って、SNSには大勢の人が増えて、ずいぶん狭い世界になってしまったように感じる。たくさんの強い言葉たちが「バズったツイート」として毎日流れてくる。「つぶやき」とは言いながらも、これを言うことで周りに自分がどう思われるかということを、送信する前に考えるようになった。何か価値のあることや、おもしろいことやかっこいいこと、少なくとも叩かれないことを言わないと、と思うようになった。現実の人間関係がSNSにも重なるようになって、うかつなことは言えなくなった。
ツイッターのアプリの下書き画面に並んでいる中には、そういう社会的なフィルターに引っかかって除外されたつぶやきたちがある。僕がSNSに求めている真の「つぶやき」とは、むしろここにあるんじゃないだろうか。
前置きが長くなってしまったが、そういうわけでみんなのツイッターの下書きをガチャガチャで引けるようにしたいと思い匿名で募集したところ、思いのほか大勢の下書きが集まってしまった。
めちゃくちゃ集まった
こんなに集まるとは思っていなかったが、集まったからには責任を持って全部ガチャにする。ツイッターのDMで送られてきた画像を手作業で大量に保存して(用事で新幹線で東京から広島に向かってる間ずっと画像を保存してた)、プリンターで印刷する。ガチャガチャのマシンも購入する。
言いたいことも言えないこんな世の中じゃ
集まった下書きはデイリーポータルZの主催するイベント『Webメディアびっくりセール』でガチャガチャとして展示、実際に回せるようにした。
結果から言うと大人気であった。カプセルに封入して大きな袋に入れて持ってきたものが早々に全て売り切れてしまった。下書きを送ってくれる人がこんなに多いのにも驚いたが、下書きガチャを回しに来てくれる人がこんなに多いことにも驚いた。下書き市場が成立してしまった。
実際に下書きを送ってきてくれた人がたくさん回しに来てくれたのがなにより嬉しい 詰めるそばから売れていって空っぽになってしまった
自分だけでなくみんな多かれ少なかれ、人の下書きを見てみたいという気持ちがあることがわかって安心した。あまりにつながりすぎたSNSでは共有できなくなってしまった思いを抱えている。
夜中にみんなで集まって画面のサイズに切る課程では文化祭の前日のような謎の一体感があったが、終電を逃してしまいタクシーで帰ったので、実際にはこの時点で全部売り切れても元が取れないことが確定してしまった。Image Clubの制作は基本常に材料費だけで赤字なので、次にイベントで出展する機会があればしつこく売り続けようと思う。(お誘いをお待ちしてます)
東信伍 (コンセプト、デザイン、準備作業、文責)
藤原麻里菜 (アイデア提供)
高田徹 (準備作業)
Twitterのみなさま (下書き提供)