『ブラジルにつながってる穴』が国家に表彰された

我々の作品『ブラジルにつながってる穴』が総務省の異能vationジェネレーションアワードを受賞してしまった。その困惑を振り返る。

僕たちが去年作った作品に 『ブラジルにつながってる穴』 というものがある。360度映像とプロジェクションマッピング技術を駆使して「穴があって、地球の裏側のブラジルにつながってたらいいのに」という現実逃避気味の妄想を実装するという作品である。

この作品が、総務省の『異能(inno)vation ジェネレーションアワード』という賞にノミネートされてしまった。ノミネートされたばかりか、受賞してしまった。総務省といえば国家である。まだ親にも認められていないプロジェクトだというのに(説明の仕方がわからないから説明してない)、まさかあらゆる共同体をすっ飛ばして国家に認められてしまうとは。

実はその授賞式から1ヶ月が経過して今に至るのだが、この受賞を自分の中でどう理解したらいいのかいまだに飲み込めていない。その時の写真を見返しながら自分の中で整理をつけていきたい。

国家ぐるみで「変な人」を認めてあげようというアワード

公式サイトによると異能vationとは、総務省が主催する「既存の枠にとらわれない破壊的なイノベーションを起こす人」、要はよくわからないけど変なことをやっている人を表彰してみようというアワードである。Webサイトにも「変な人」と明確に書いてあり、それをかっこよく表現すると「異能」ということになるらしい。

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自称「変な人」であることを受け入れる、自意識の洗礼の果てに

ここで認めなければならない事実が一つある。このアワードにノミネートされたということは、自ら「変な人」として応募したということだ。人から言われる「変な人」はまだしも、自分で自分のことを「変な人」と言っているのは大抵ちょっと残念なだけの普通の人というのが定説だ。これに応募する時点で「私は自分を『変な人』だと思っている人です」、ということを表明しなければならない。

わかった。認めざるを得ない。受け入れよう、自分は自分のことを変な人だと思っている恥ずかしい人だということを。まずはそこから始まる。この自意識の洗礼を乗り越え、歯を食いしばりながらフォームを埋めて提出した。

そんなことも忘れかけたある日の朝、「ノミネート」の単語が件名に入ったメールが届いた。

それも2通。

『ブラジルにつながってる穴』のほかに、僕が会社で制作している 『バーチャルろくろシステム Roquro』 もノミネートされていたのだった。

ノミネート。Image Clubとしてはもとより、僕個人の人生経験の中でも何かにノミネートされたことなどない。そこからのダブルノミネートである。心臓に悪い。

ノミネート者の中から受賞者が発表される授賞式は日比谷の東京ミッドタウンで行われるそうだ。おっかなびっくり制作者の3人で会場に向かった。「受賞を前提に全員バッキバキのタキシードで向かおう」という話が出たが、タキシードのレンタルに1日1万円かかると知って頓挫した。

受賞の感想は「えっ?」

会場では国家のイベントらしく政府の要人らしき人たちの挨拶が行われ、いよいよ受賞者発表へ。

満員の観客を前に、おびただしい量のノミネート作品が早口で読み上げられる。応募者は1万件以上、そのなかから選ばれたノミネートが170件以上もあったこともあり、各ノミネート作品についての解説は特に行われない。個人的にはその中の一つ『逆電子レンジ』というノミネート作品がいったいどういうものなのか非常に気になったが、最後まで何だったのかはわからずじまいだった。

そして数々の有用そうな作品の受賞が発表されていく中…

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えっ?

というわけで、企業賞(株式会社タカラトミーアーツ様)で『ブラジルにつながってる穴』が受賞してしまった。受賞が発表された瞬間の率直な感想は「えっ?」だった。以降、今に至るまでずっと「えっ?」と思い続けている。頭の上にクエスチョンマークが浮かび続けている状態だ。

この作品名がこんなに大きなスクリーンに映し出される日が来るとは。作品についての説明は特になかったので、観客からしても他の受賞作に輪を掛けてよくわからない状況だったと思う。

受賞後も日常は続く

写真を見ながら記憶をたどってみたが、「あれは一体何だったのだろう…」とよくわからなさだけがつのる結果となった。当日は事態がうまく飲み込めず、とりあえずスマートを取り繕って落ち着いたフリの対応をしていたが、3日後にうれし泣きして大喜びしている夢を見た。当日喜び足りてなかったのだと思う。

それから約1ヶ月。受賞を境に日常は一変、誰もが一目置く存在になり、マスメディアからの取材は殺到、評判はうなぎ登り、恋も仕事も大成功…というようなことは特にない。授賞式が終わってからも翌日以降、日常は淡々と続くのだ。

『ブラジルにつながってる穴』はImage Clubの最初の作品でもあり、活動をはじめるきっかけとなった作品である。それが総務省のアワードを受賞してしまったのでこれから国家に認められる高尚なものしか作れなくなってしまったらどうしようという不安が残るが、今後もあってもなくても困らないものを優先的につくっていきたい。

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昼に食べた天丼。現実感のない一日の中でこの天丼のべちゃべちゃ具合だけが鮮明に残っている(おいしかった)

おしらせ

国家公認の組織となったImage Clubでは、「ブラジルにつながってる穴」を実際にリアルタイムでブラジルに接続できる予算・コネクションをお持ちの政府関係者を募集しています。お気軽にご連絡ください。

東信伍 (文責、受賞)
高田徹 (受賞、写真提供)
時田浩司 (受賞)
矢島愛子 (茶人、写真提供)